講師とその研究などについて

シンポジウムに登壇いただく講師の先生方のホームページや、インタビュー記事などをご紹介します。

招待講演 西浦 博 教授(京都大学)
「新型コロナウイルス感染症の数理モデルによる疫学データ分析

【講演概要】新型コロナウイルス感染症の流行は2次感染が起こりやすい条件が次第に明らかにされており、日本ではその異質性に着目した流行対策が行われてきました。流行初期にはクラスター対策が実施され、2回目の緊急事態宣言はハイリスクな場に着目したものになっており、言わば異質性に着目したものになっています。加えて、2次感染を規定する要因として人口密度や気温、ヒト移動率、コンプライアンスなどが説明要因になり得ることが知られてきました。本講演では、これまでの研究から得られた知見について国内のものを中心にご紹介します。

【講師紹介】にしうら・ひろし。京都大学大学院医学研究科教授。2002年宮崎医科大学医学部卒業。ロンドン大学、チュービンゲン大学、ユトレヒト大学、香港大学で専門研究と教育を経験。2020年8月より現職。専門は感染症数理モデルを利用した流行データの分析。厚生労働省新型コロナウイルスクラスター対策班で流行データ分析に取り組んだ。

講演① 井ノ上 逸朗 教授(国立遺伝学研究所)
「ゲノム解析からみえるSARS-CoV-2の特徴」

【講演概要】SARS-CoV-2感染によるCOVID-19のパンデミックが止まらない。SARS-CoV-2は一本鎖のRNAウイルスで大きさは30kbとRNAウイルスとしては最大である。RNAウイルスなので変異率の高さが指摘され、最近ではイギリス変化株や南アフリカ変異株のリスクが指摘されている。当然開発中のワクチンの効果とも関連する。もともと中国の武漢で発生したCOVID-19であるが、現在では武漢タイプは世界中に存在せず、ヨーロッパで起こった変異とされるスパイク部の変異であるD614Gがほとんどである。本シンポジウムではSARS-CoV-2に関する様々な話題を取り上げ、遺伝研で行っているウイルスゲノム解析の一端を紹介したい。

【講師紹介】いのうえ・いつろう。鹿児島大学大学院にて学位取得後、徳島大学酵素研でポストドク。その後、米国ユタ大学生化学へ留学。研究の方向性を変えるためユタ大学ハワードヒューズ医学研究所でリサーチアソシエートとして人類遺伝学を学ぶ。群馬大学、東京大学、東海大学を経て現職。本態性高血圧の遺伝要因の解明を始め、脳動脈瘤、後縦靱帯骨化症、子宮内膜症といったありふれた疾患の遺伝要因を研究している。疾患メカニズムに内在性ウイルスが関与していることより、ウイルス研究に取り組むようになった。

●研究テーマ:「次世代シーケンサーを駆使したゲノム医学研究」
次世代シーケンサーで得られる膨大な塩基配列情報を医学研究に活用し、ヒト疾患の理解、治療法の開発に寄与することを目指しています。疾患ゲノム研究は原因となっている遺伝子変異、多型を検出するのみならず病変組織における遺伝子発現プロファイル、ネットワーク解析を組み合わせることにより、疾患メカニズム理解につなげる研究も推進します。また多因子疾患における疾患感受性遺伝子は進化的な意義を有することが多く、集団遺伝学的な検討も試みています。

●井ノ上逸朗による2017年一般公開・公演動画
「遺伝で決まること、決まらないこと」

講演② 村上 大輔 助教(統計数理研究所)
「COVID-19流行の地理的要因の解明に向けた統計モデリング」

【講演概要】COVID-19の感染拡大に伴い、例えば陽性者数や人流などの各種の関連データが使用可能となってきており、それらを用いて感染の拡大要因を明らかとすることや、有効な対策を検討することが求められております。残念ながら、陽性者数データは、例えば無症状感染者の存在や報告遅れなどの影響をうけた不確実性のあるデータであり、その解析には不確実への対処が必要となります。そこで本研究では、まずは不確実性を柔軟にモデル化する統計手法について説明します。次に、同手法を用いて通勤、世代構成、人口集中といった各種要因が都道府県別の陽性者数に及ぼした影響を定量評価します。

【講師紹介】むらかみ・だいすけ。2014年 筑波大学大学院・システム情報工学研究科修了。2017年7月まで国立環境研究所・地球環境研究センター・特別研究員。その後、2018年3月まではモデリング研究系、4月以降はデータ科学研究系の助教として統計数理研究所に所属。主な研究テーマは時空間統計モデリング、大規模データモデリング、都市・環境分析。統計ソフトウェアRのパッケージの開発や、全球の空間詳細な将来人口・GDPシナリオの推計・公開なども行う。

村上大輔助教が「シンフォニカ統計GIS活動奨励賞」を受賞

村上大輔助教が平成30年度「シンフォニカ統計GIS活動奨励賞」を受賞しました。「地理情報の大規模化・多様化を見据えた空間統計解析の研究推進・普及啓発」が評価され、受賞となりました

講演③ 斎藤 正也 准教授(長崎県立大学)
「メタ・ポピュレーションモデルによる地方への流入リスク分析」

【講演概要】新型コロナウイルスは大都市を中心に流行が維持されている。地方での流行を分析するには交通等による人の移動を考慮することが必要である。本研究では、メタ・ポピュレーションモデルを使い、都道府県間の人の移動を考慮したCovid19の流行を記述し、これに感染報告数を同化することで予測モデルを構成した。なお、流行動態を記述する実効再生産数は必ずしも全国で連動した変化を見せておらず、地域別の推定が必要である。計算リソースの制約を考慮した簡易推定についても議論する。構成した予測モデルを使った地方への流入リスクの算定の一例として、連続する感染報告を一回の小規模流行とみなし、規模と頻度の関係を示す。

【講師紹介】さいとう まさや。長崎大学 情報システム学部 情報セキュリティ学科 准教授。力学系および時系列解析手法の感染症数理モデルへの応用に関する研究に従事。2002年筑波大学理工学研究科 電子・情報分野終了、修士(工学)取得、2005年総合研究大学院大学 天文科学専攻修了、博士(理学)取得。統計数理研究所特任研究員、特任助教、東京大学医学系研究科特任助教。統計数理研究所特任准教授を経て、現職。

講演④ 水野 貴之 准教授(国立情報学研究所)
「人流ビッグデータで振り返る1年」

【講演概要】感染拡大をくい止めるために、政府は不要不急の外出を控えるように呼びかけています。TVでは日々、繁華街での人出の増減が報じられていますが、どの地域の住民が繁華街を訪れているか、外出を自粛していないのかが不明なままです。その結果、自粛要請は積極的な自粛を実行している地域の住民にとっては過剰な要請になる一方、自粛の足りていない地域の住民に対しては過小な要請となっています。過剰な要請は経済を萎縮させ、過小な要請は感染拡大を招きます。自粛が十分なのかを知ることができなければ、各住民の自粛のインセンティブは弱まります。地域ごとに自粛率を定量化する技術についてお話し、コロナ禍の1年を振り返ります。

【講師紹介】みずの・たかゆき。「計算社会科学」を専門とする情報科学者として、経済や社会の喫緊の課題解決に挑んでいます。コロナ禍では、携帯電話の位置情報などの空間情報ビッグデータを活用して、自粛状況や感染場所の「見える化」を行っています。近年は、複雑ネットワーク解析から企業活動のグローバル化による新たなリターンとリスクを明らかにし、SDGs達成に向けて、ESG投資や経済安全保障への応用を進めています。

●水野 貴之 - 情報社会相関研究系 - 研究者紹介

●ビッグデータ解析でコロナ社会の課題解決を
「計算社会科学」が専門のデータサイエンティストとして、携帯電話キャリアや全地球測位システム(GPS)などのビッグデータを解析し、新型コロナウイルス感染症対策に役立てるべく、積極的に情報発信をしています。さらに、AI(人工知能)を使って、時々刻々と変わる感染状況や、国によって異なる感染の広がりを捉えようと奮闘中です。

●ビッグデータと新型コロナウイルス感染症 新型コロナウイルス感染症対策への位置情報ビッグデータの応用

         

講演⑤ 橋田 元 教授(国立極地研究所)
「遠かった昭和基地-新型コロナ禍での南極観測」

【講演概要】新型コロナウイルス感染症の世界的拡大は、各国の南極観測に大きな影響を与えた。日本の観測隊も、国内準備段階での健康管理や行動制限に加え、当初計画から隊員数を半分程度まで減らして活動計画を絞り込んだ。また、移動手段は南極観測船「しらせ」のみとして、途中寄港することなく日本と昭和基地を直接往復という前例のない航海とした。昭和基地において半世紀以上に渡り地球環境等に関わる高品質のデータを提供してきた観測を継続すること、それが、2020年11月上旬に出発した第62次観測隊の最優先事項である。感染が拡大する中の国内準備、そして「しらせ」および昭和基地において実際にどう行動したのかなどを紹介する。

【講師紹介】はしだ・げん。二酸化炭素濃度の将来予想において、大気・海洋間の二酸化炭素交換量を正確に把握することは必須であるが、極域海洋は他海域に比べると観測データが不足しており、主に南大洋をフィールドした海水中二酸化炭素の動態の観測に基づく研究を行っている。観測航海、そして、第39次と第44次観測隊では越冬隊員として昭和基地で温室効果気体モニタリングを担当し、第54次では越冬隊長、第62次隊では観測隊長兼夏隊長を務めた。

●おうちで極地「第62次隊長・副隊長にインタビュー」
昨年11月、第62次南極地域観測隊の出発前に収録した橋田隊長のインタビュー映像です。新型コロナ禍の影響や、62次隊の活動計画、出発に向けた意気込みを語っています。

●第62次南極地域観測・設営計画の概要
橋田元教授が隊長を務める第62次南極地域観測隊の観測・設営計画の概要を記載したパンフレットです。

●第62次南極地域観測・設営計画
橋田元教授が隊長を務める第62次南極地域観測隊の観測・設営計画を詳しく紹介しています。

●観測隊ブログ
南極地域観測隊の日々の活動をお伝えするブログです。

特別講演 喜連川 優 所長(国立情報学研究所)
「コロナ禍が示唆する高等教育のニューノーマル
~20回を超えるサイバーシンポで共有される貴重な知見から見える未来の姿~」

【講演概要】コロナ禍において、デジタル化された教育データが膨大に取得された。これは歴史上はじめての出来事である。昨年中は、各大学は講義をすることで手一杯であったが、徐々にデータの解析が進みつつある。データ駆動教育の曙とも言えよう。その糸口についても論じたい。

【講師紹介】きつれがわ・まさる。国立情報学研究所 所長、東京大学 教授。1983年東京大学大学院工学系研究科情報工学専攻博士課程修了。情報処理学会会長、日本学術会議情報学委員長を歴任。データベース工学の研究に従事。2013年より国立情報学研究所所長。ACM SIGMODエドガー・F・コッド革新賞、電子情報通信学会功績賞、情報処理学会功績賞、IEEE Innovation in Societal Infrastructure Award、日本学士院賞など。2013年紫綬褒章、2016年レジオン・ドヌール勲章。ACM、電子情報通信学会、情報処理学会フェロー。中国コンピュータ学会栄誉会員。IEEE Life Fellow。

●「ハイブリッド」が新常態に、対面と遠隔の利点を生かせ
新型コロナウイルス感染症の世界的流行を予期し、2020 年2 月の段階で「オンライン学会」の実現へ検討を始めました。3 月末からは、「4 月からの大学等遠隔授業に関する取組状況共有サイバーシンポジウム」を週1 回のペースで主催するなど、学会や大学の授業のオンライン化へいち早く道筋をつけた喜連川所長に、実現までの経緯と見えてきた課題、ポストコロナ時代の教育と研究について聞ききました。

●大学等におけるオンライン教育とデジタル変革に関するサイバーシンポジウム「教育機関DXシンポ」