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機構長の挨拶

喜連川 優
大学共同利用機関法人
情報・システム研究機構
機構長 喜連川 優





デジタルと統計の強みを活かし
「ROIS」にしか出来ないことに挑戦します




 





 世界各地での自然災害や紛争、世界的感染症の流行など、私たちは不確実性の高い、予測不可能な時代に突入しています。この現状を悲観し、ただ回復することを願い待ち続けるのではなく、未来を見据えて前に進んでいかなければなりません。

 情報・システム研究機構は4つの研究所から構成され、生命、地球、自然環境、人間社会などの複雑な現象や問題について、情報とシステムという視点から据え直し、データサイエンスを推進することで、分野の枠を超えた融合的な研究により、その解決を目指しています。全ての大学の共同利用・共同研究を支えることをミッションとしており、最先端の大型装置や大量データ、貴重資料や分析法などを全国の研究者に提供し、大学の枠を超えた共同研究により、それぞれの専門分野における最先端研究を推進するとともに、データサイエンス人材の育成や教育DXの推進など、教育分野への貢献も牽引する世界に類を見ない我が国独自の研究機関の一つです。

 国立極地研究所では、氷床掘削による過去数十万年までの気候変動を詳細に分析し、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)をはじめとする国際的な活動に貢献しています。今後の地球温暖化とその影響について、より精緻な分析やシミュレーションを行うべく、100万年を超える最古級の氷の採取を目指して新たな深層掘削の準備を進めています。南極高緯度地域は厳しい通信環境ですが、昭和基地やその周辺から極地の映像を詳細に配信し、観測活動の重要性を発信することに加え、越冬隊員によるオンライン「南極教室」やGIGAスクールへの配信などにより将来の研究者育成にも貢献しています。

 国立情報学研究所では、2022年4月よりネットワーク基盤であるSINETを世界最速となる400Gbpsの超高速ネットワーク基盤「SINET6」にアップグレードし、約1,000機関を超える大学や公的研究機関のみならず、小学校、中学校、高等学校での利用に加え、今後、産業利用や生涯教育での貢献も大いに期待されています。また、研究データ管理基盤「GakuNin RDM」の本格運用により、研究者のデータ管理を支援するだけでなく、研究データが正しく公開されることにより、これからのオープンサイエンスの発展を支えています。

 統計数理研究所では、分子動力学法による高分子物性計算の全自動化に世界で初めて成功した「RadonPy」を開発・公開し、スーパーコンピュータ富岳の計算資源を活用することで、材料分野で世界的な課題とされている高分子物性データベースを10万種以上開発するという前人未踏な挑戦を続けています。また、同研究所が保有する世界最大のメモリーを搭載した「データ同化スーパーコンピュータ」は、自然科学や社会科学分野における巨大かつ複雑なモデルの推定とシミュレーションを即時に実施可能な環境を提供しています。

 国立遺伝学研究所では、近年注目を集める二酸化炭素を海洋生態系の助けを得て吸収させる「ブルーカーボン」という考え方に立ち、ヒトと進化的に最も遠い系統にあるサメ類を対象とする海洋脊椎動物のゲノム情報を解き明かし、地球規模課題である温暖化や生物多様性の損失に対峙する上で欠かせない海洋生態系の理解に貢献しています。加えて、高温下、強酸性下、高塩濃度化の環境でも培養可能な微細藻類によるグリーンバイオの応用も進めており、機能性飼料やタンパク資源など様々な用途での利用が期待され、国内企業との社会実装に向けた活動を進めるなど、遺伝学による研究アプローチにより地球環境や生態系の変化の解明に貢献しています。

 このように、4つの研究所は複雑科学を研究する2つの分野型の研究所と、全学問分野で共通して必要とされる情報学と統計数理科学の基礎と応用研究を担う2つの研究所から構成されており、相互に掛け合わせることで複雑科学に適用し、それを基にデータサイエンスを一層発展させることが可能な優れた組み合わせとなっています。さらに、2016年には4つの研究所の領域を横軸で繋げるデータサイエンス共同利用基盤施設を設置し、データドリブンな科学により社会にイノベーションを起こすべく、分野を超える活動を積極的に推し進め、新たな研究分野を開拓するとともに、その研究成果を広く社会に還元するオープンサイエンスによる取り組みを積極的に推進しています。

 今日、2000年代から続く第3次AIブームに加え、ご承知のようにChatGPTの出現により、今後様々な分野やサービスにおいて革新をもたらし、ウェルビーイング向上に期待や可能性がある一方で、与えられる情報の真正性や正確性を問わないことから、利用者は情報の真実を見抜く力やリテラシーが求められます。AIが社会のあらゆる分野に進出し、日常生活の質が向上する中、これまでは予見できなかった新しい問題が生み出されていることも事実です。当機構としては、サービスと法律との関係性は当然のことながら、国民の利益や経済安全保障にも留意しつつ、デジタルと統計を最大限駆使し、我が国のみならず地球規模の課題解決や実現に向けて一層邁進いたします。

 当機構は2004年に発足した若い組織です。特に産業界の方にとっては、必ずしも耳慣れない名称かもしれません。歴史ある4つの研究所を基盤としながら、法人としてのスケールメリットを活かし、ステークホルダーの皆さまに最大限還元できるよう今後の法人運営に取り組むことを目指します。

 引き続き、情報・システム研究機構にご支援とご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願いいたします。


2023年5月