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情報・システム研究機構シンポジウム2019

講演4

あなたが持つモノはクリーンな世界から来ているのか?
    ~持続可能なグローバルサプライチェーン構築に向けた情報学の取り組み~

水野 貴之(情報・システム研究機構 国立情報学研究所 准教授)

現代は、物資の供給網であるサプライチェーンがグローバル規模になっています。メーカーは、部品がどこから来たのか見当もつかず、環境破壊、児童労働、詐欺が疑われるような企業を通過していないという証明ができません。生産活動を長期的に維持するには、こうした企業の改善や排除が必要だ。国立情報学研究所の水野貴之准教授は、この難問に取り組んでいます。

「グチャグチャ」の世界からブラック企業を見つけ出す

例えば、アフリカの一部の地域では、紛争の資金源とするために採掘されたレアメタルやダイヤモンドなどの希少な金属や鉱物は、現地の採掘業者が買い取り、現地の商社が買い、グローバルな商社に渡り、やがて私たちの手元にやって来ることがあります。また、世界には、児童労働で採掘されて作られたものや、自然環境を汚して作られたものも地元の企業に安く買い取られ、サプライチェーンに流れ込んでいく現実もあるといいます。しかし、サプライチェーンが「グチャグチャ」(水野教授)になっているので、ブラックな企業を見つけ出すのは不可能に近いのです。

水野准教授は、世界規模で動く物の流れを情報学の力でなんとか見えるようにして、クリーン化する方法を作り出す方法を考え出しました。使う技術は二つ。一つは、ビットコインなどで使われている「ブロックチェーン」。多くのコンピューターをつなげることで、さまざまなものがいつどこで誰が取り引きしたのか、情報を共有してその流れを追います。二つ目は、複雑ネットワーク解析の技術。これを使うと、ネットワークの中で起きたことがどのように影響していくかを見ることができます。

ブラックな企業と我々を繋げるブリッジ企業が見えて来る

すでに、美術品や時計、ワイン、高級車、レアメタルの一部などの高額商品は、ブロックチェーンで取引情報を追う仕組みが整い始めているといいます。しかし、安い商品だと、ブロックチェーンに載せるコストがペイできません。「そこで、複雑ネットワーク解析の技術を使うんです」(水野准教授)。

世界の企業は、上場していれば有価証券報告書を出します。影響力のある上位数%の企業を対象にして、その報告書に載っている主要な販売先や仕入先の取引先リストをつなげていくと、仲間内が密につながるコミュニティーがいくつも見えて来て、それらのコミュニティー同士をつなげるブリッジ役の企業も浮かび上がってくるといいます(図)。「類は友を呼ぶという言葉があるように、ブラックな企業はブラック企業が集まるコミュニティーにいることが圧倒的に多い。サプライチェーンをクリーン化するには、問題ない企業が集まっているコミュニティーとブラックなコミュニティーとをつなぐブリッジ企業で取締をおこなえば効率的なんです」と水野准教授。

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必要な情報をすべて集められなくても、ブリッジ企業の属性をつかめれば、そこを集中的に調べていくことで、ブラック企業からの物流を計算上は99%取り除けるといいます。「グローバリゼーションは複雑だが、よく見ると、効率性を上げるためにスモールワールドになっている面もあり、このような方法を用いれば、協力してくれない国があっても規制できるようになる」と、水野准教授は情報学の応用の広さを示しました。